1.まえがき
太陽は光・電磁波とともにプラズマの風(太陽風)を絶えず放出している。光・電磁波に比べて
そのエネルギーは小さいけれども、太陽風は地球などの惑星の周りの磁気圏・電離圏環境に最も大
きな影響を与えている。太陽風は地球の固有磁場を押しつけ、包み込むように下流に流れ去るので、
地球磁場は吹き流しのように下流に伸びた、図1に示すような地球磁気圏を作り出す。太陽風と
太陽風に伴われて太陽から流れてくる惑星間磁場(IMF)によってどのような磁気圏が形作ら
れるか、どのような条件の時に磁気圏に多くのエネルギーが流入し、磁気圏・電離圏がどのように
振る舞うのかを理解するのが太陽風磁気圏相互作用の主な研究目標である。
近年、衛星観測によって太陽風や磁気圏の平均的な構造と平均的な物理量はかなり明らかになって
きた。また、最近の衛星の連繋観測では、太陽風や磁気圏・電離圏のキーポイントで物理量を同時
観測することによって、太陽風ー磁気圏ー電離圏間のエネルギーの流れと物理機構を明らかにしつつ
ある。しかし、衛星観測は時空間の軌道上の線に沿っての物理量観測が基本であるため、時間と空間
との分離ができず、また空間の同時観測点も衛星の個数によって限られる。こうした観測点間を結ぶ
ものとして、計算機シミュレーションに対する期待が近年高まってきた。
スペース科学の計算機シミュレーションモデルには大別して粒子モデルと流体モデルがある。粒子
モデルは、荷電粒子の適当な集まりを1個の粒子としてまとめて扱い、ニュートンの運動方程式を解く
ものである。粒子モデルは任意の速度分布を持ったプラズマに適用でき、プラズマの速度分布関数が
マックスウェル分布から外れた時には本質的に重要である。一方、流体モデルは、速度分布関数が
マックスウェル分布で表される時に適用でき、流体の運動に磁場変化を含めた1流体の電磁流体力
学的(MHD)モデルは、空間と時間のスケールを自由に伸長できるために、磁気圏の構造やダイナ
ミックスを調べるために良く用いられる。
MHDモデルには、地球磁気圏の全体的構造を扱うグローバルモデルと磁気圏境界の一部で生じる
磁気再結合やケルビンーヘルムホルツ不安定などの物理過程を扱うローカルモデルに分類できる。
太陽風磁気圏相互作用のMHDシミュレーションは、グローバルモデルの典型的な例で、できるだけ
仮定を入れずに自己矛盾無く相互作用を解こうとするものである。このためには、計算結果になるべく
影響を与えないように外側の境界を遠ざけ、同時に空間分解能をできるだけ上げるため格子間隔を
狭めたいという両立困難な要求が出てくる。従って、できるだけ大容量のメモリを持ち、しかも高速
な計算機が必要となる。
2.宇宙天気予報とシミュレーション
太陽地球間の環境変化の要因を調べることは、人間の活動が宇宙へ拡大しつつある今日、極めて重要
な課題となってきた。人が人工衛星の外に出て活動する場合、太陽からの大量の高エネルギー粒子の
突発的な飛来は、人の健康にとって大変危険であるし、また、人類に多大の恩恵をもたらしている通信・
放送・気象用人工衛星の安定な運用にも重大な障害をもたらす可能性が大である。こうした観点から、
太陽地球間の諸物理量をいつもモニタリングして、時々刻々の環境変化を予報することの重要性が国際
的に認識され、並行して宇宙天気予測をより確実性の高いものにしていくために、信頼性の高い数値
予測モデルを構築する基礎研究が宇宙天気プログラムとして米国で近年開始された。
しかし、太陽地球間の環境変化の統一的数値予測モデルを作るということは容易ではない。それは、
太陽から地球までの空間が、物理量の変化に富んだ、全く異なったような領域から構成されるためと、
その中で引き起こされる現象の時間変化が大きいためである。即ち、太陽地球間の環境変化は極めて
複雑であり、空間的に非一様で、時間的に非定常で、かつ強い非線形性を示す特徴を持っている。
この太陽地球間の環境変化を全て含んで自己矛盾なく解くことは現段階では不可能で、太陽表面現象、
太陽風磁気圏相互作用、磁気圏電離圏結合、電離圏大気圏結合に分けて、それぞれの領域間結合として
信頼性の高いシミュレーションモデルを作成しようとしているのが現状である。
私たちもその一翼を担い、3次元グローバルMHDシミュレーションから太陽風地球磁気圏相互作用
を調べ、IMFや太陽風動圧の変化に伴う地球磁気圏の応答を調べるとともに、電離圏の効果を含める
ようにモデルの拡張を図っている。その太陽風磁気圏相互作用の3次元グローバルMHDシミュレー
ション結果を理解するためには可視化は必須である。特に、重要でかつ面倒な2つの機能にアニメー
ション動画と3次元可視化があるが、アニメーション動画は時間変化を示すことによって磁気圏ダイナ
ミックスの理解を助け、3次元可視化は磁気圏の流線、磁力線及び電流構造の特徴を明らかにするのに
威力を発揮する。さらに、最近話題になっているインターネットによる情報公開は、誰にでも簡単には
できないような自己矛盾のないシミュレーション結果を誰もが即座に共有化でき、現象をよりよく理解
し、かつ説明する上で強力な手段となりつつある。
3.シミュレーションの方法
太陽風磁気圏相互作用の3次元MHDモデルでは、MHD方程式とマックスウェル方程式を初期値境界 値問題として、様々な方法でその時間発展を解いている。偏微分方程式を差分化して 2 step Lax-Wendroff法 で解く方法などはその例である。空間分解能を上げるための計算方法における様々な工夫として、非一様 格子法、非構造格子法、自動調節格子法、時空間多重格子法の導入などが行われている。 以下では、私達が用いている高精度計算法の一つである modified leap-frog 法について述べる。 シミュレーションには、図2に示すような太陽方向x軸正、夕方向y軸正、磁気北極方向z軸正とした 太陽地球磁気圏座標系を用いて、MHD方程式とマックスウェル方程式を時空間で差分化して、時間発展を 解く。数値計算法としては、図3に示すように最初の1回を two step Lax-Wendroff法で解き、続く (l-1) 回を leap-frog法で解き、その一連の手続きを繰り返す。l の値は数値的に安定の範囲で大きい方が望まし いので、2次精度の中心空間差分を採用するとき、数値精度の線形計算と予備的シミュレーションからl = 8に 選んでいる。Modified leap-frog法は、two step Lax-Wendroff法の数値的安定化効果を一部取り入れて、 leap-frog法の数値的減衰と分散の小さい効果をより多く取り入れた、数値的減衰と分散にバランスの良く とれた一種の組み合わせ計算方法となっている。また、パラメータl を変化させることによって、性質の 良く分かった2つの計算方法に一致させることができるので、結果に与える数値誤差の影響も理解し易い 利点を持っている。 これらの3種類の計算方法を波動方程式に適用した結果を図4に、電磁流体力学の非線形現象であるMHD 衝撃波のシミュレーションに適用した結果を図5に示す。 線形な波動方程式でパルス波の伝搬を差分法で 解く場合、波長の短い波ほど数値的減衰が大きくかつ位相速度が遅いので、パルス波が崩れて後に波列が 現れる。その数値的な減衰と分散がmodified leap-frog法では大幅に改善されているのが見られる。非線形な 現象の場合もtwo step Lax-Wendroff法では、数値的分散によって衝撃波の後ろに振動が発生し、modified leap-frog法では、それが小さく抑えられて衝撃波の形がよく得られているのが分かる。一方、leap-frog法 では、振動が深くなって衝撃波がパルス列に分離しているのが見られる。これは、数値的減衰は無いが数値的 分散は存在する leap-frog法の数値的特性に依存する現象で物理的には意味のないものである。初期条件には、 「対称面より上流で零のミラーダイポール磁場」と「重力とプラズマ圧力が静的に釣り合った球対称の電離層」 を仮定し、シミュレーション箱の上流から一定の密度、速度、温度を持つ太陽風を流し始めて、定常状態に 近い磁気圏の構造を求める。初期にミラーダイポール磁場を用いる理由は、上流で流れに平行な磁場成分を 含めないためである。境界条件としては、上流は固定端、側面と上下面は磁気圏前面に形成される衝撃波の 形状を考慮して、x軸と45度の角度を持たせた自由端、下流は面に垂直な方向に自由端、地球の中心を 通るy=0又はz=0の面では磁場と速度のベクトルと矛盾の無い鏡像の境界条件を課す。更に、太陽風や IMFのパラメータを変化させて、磁気圏・電離圏の応答や擾乱現象を調べる。
4.スーパーコンピュータの利用についての考え方
太陽風磁気圏相互作用の3次元グローバルMHDシミュレーションの実行には、大容量かつ高速のスーパー
コンピュータの利用はどうしても必要であった。ここで、CRAY−1に始まって、スーパーコンピュータを
利用して経験してきたことをまとめてみる。高精度の3次元シミュレーションを実行するためには、計算方法
の改良は一方で当然必要であるが、同時に限られた計算機資源で、できるだけ多くの格子点を用い、かつでき
るだけプログラムを高速に実行させたいという2つの基本的要求が出てくる。その基本的要求をできる限り
満足させるために、最低必要な独立変数以外の作業変数の量をできるだけ減らし、かつベクトル化の効率を
上げるMHDプログラムを作成する努力を続けてきた。ちなみに、最低必要な独立変数の量は、
2 step Lax-Wendroff法ではMHD方程式とマックスウェル方程式の独立な8個の成分に格子点数を掛けた
数で、 Modified leap-frog法では時間方向に進んだ2つの量が独立であるために更に2倍の数となる。通常、
全体でその3〜4倍の変数が必要となるが、ベクトル化を実現して作業変数量を極端に減らすとプログラムの
総容量を1.3倍程度以下にすることができる。
CRAYやVPなどのベクトル計算機の利用で考えてきたことは、いかにしてすべてのdoループを
ベクトル化させるかであった。プログラムの一部を取り出してみる時、プログラムの分割で計算の順序を
変えても結果が変わらない完全独立な部分と、計算の順序を守れば結果が変わらない順序つき独立な部分があり、
いずれもベクトル化が実現できた。実際のベクトル化の手続きでは、内側のdoループをベクトル化し、
ベクトル長を長くし、条件文の取り扱いを工夫することにより、すべてのdoループをベクトル化できて、
その結果プログラム全体としてスカラー速度の30〜50倍の演算速度を得ることができた。
同時に、完全独立な部分は並列化も可能であるはずと当初は考えていた。この考え方は、CRAYーC90
などの共有メモリ計算機では正しかったが、分散メモリ計算機では全く間違った認識であった。即ち、計算に
必要なすべてのデータを、分散化されたcpuのメモリに予め集めておく必要がある。このプロセスをどの
ように高速に実現するかが大きな課題であり、計算機の特別な機能として用意されているのと、利用者が
プログラムで自由に通信制御できるのとでは大きな違いとなる。
最低必要な独立変数以外の作業変数の量をできるだけ減らすことができれば、限られたメモリでより多くの
格子点数を使用できるが、これも並列化の効率を上げることと両立の困難な問題である。並列機においては、
正に計算機のデータ保存方式として、利用者に提供される機能・方法による制限と直結しているように思われる。
できるだけ高次元で両立性を実現するためには、計算スキームを具体的に書き表すプログラムの基本的な構造を
決める必要がある。これは、作業変数をできるだけ減らす方法は、プログラムの構造を決めることにより見通し
よくなるからである。ここでのプログラム構造とは、計算の流れを示すフローチャートに配列の利用内容を
加えたものである。こうして、並列機を最大限に活用しようとすればプログラムの全般に亙る書き直しは
現状ではどうしても避けて通れないと感じている。同時にこれは、利用者に多大の負担を強いることでもある。
5.磁気圏シミュレーションデータの画像処理
3次元のMHDシミュレーションで何が得られているかを知るためには可視化は必要不可欠であるが、従来は コンピュータの種類と用いる画像処理ソフトウエアの種類によってその画像処理の方法はまちまちで、 コンピュータの利用環境が変わるたびに対処しなければならないのが常であった。即ち、利用者は画像処理を して図形出力を取り出すために、新しいシステムへのプログラムの移植と新しいプログラム作成のために多くの 時間を費やしてきた。私も、日米で10種類以上のコンピュータを利用して、スペースプラズマのシミュレー ションをしなければならない状況に置かれて、画像処理方法の不統一のために被らねばならない不便さを痛感し、 その問題を克服しようと努めた。
画像処理を統一的に行うためには、次の3つの条件が満たされる必要がある。 1.コンピュータの種類に依存しない方法の確立 2.ソフトウエアなど全てを自分たちでコントロールする 3.プログラムなどできるだけ統一的に(共通に)扱う方法の確立これを逆にいえば、コンピュータに依存したソフトウエアや言語・仕様は使わない、また、特定の業者のみが 販売する画像処理応用ソフトウエアは使わない、ということになる。
1.シミュレーションデータをIEEE Binary形式で保存 2.FortranプログラムでPostScript画像ファイルを直接に作成 PostScriptファイルを作成するためのInterface Subroutine Packageを作成 3.PostScriptファイルからファイル変換ツール(xv, pstogifなど)で圧縮された 画像ファイル(gifなど)を作成 4.圧縮画像ファイル(gifなど)をWWWで公開この方法により、Fortranが使えて、その中で大文字と小文字の区別ができれば、コンピュータの種類に よらずにPostScript画像ファイルを作って図形出力を取り出すことが可能になった。Fortran が使えない 場合は、C言語でもできるようにC言語用のInterface Subroutine Packageも用意している。
6.アニメーション動画の作成
時間変化をみるためには、アニメーション動画の作成も重要である。しかし、コンピュータシミュレーション
結果からのアニメーションビデオ動画の作成は必ずしも容易ではなく、従来画像処理専用機と専用ソフトウエア
を用いる必要があった。私達は、ビデオ自動コマ撮り機能を持つ3次元画像解析装置としてクボタコンピュータ
社製のTITANを導入し、3次元画像処理ソフトウエアDoreを用いてアニメーションビデオ動画作成を行ってきた。
TITANは主メモリとディスク容量も現在では小さい部類になってしまい、大量のシミュレーションデータを扱う
のが困難になったので、新しい3次元画像解析装置SGIのIndigo-2に更新して、SGI以外のコンピュータ
でも動く3次元画像処理ソフトウエアOpen-GLを用いてアニメーションビデオを作成することにした。ところが、
その自動コマ撮り機能はOpen-GLの3次元画像からそのままビデオに変換することが困難で、AVS(Application
Visualization System)を経由してビデオ動画を自動作成することで、メーカー側からの最終解決法が提供された。
私達にとって、このシステムを便利に利用するためには他の画像ファイルからAVS動画ファイルに効率よく
変換できることが不可欠であったが、そのファイル変換ツールが提供されなかったので、SGIのIndigo-2を
用いてアニメーションビデオを作成する方法を中心に進めていくことを断念した。こうして、アニメーション
動画作成は、流体研究所製のICFD Aleph(Perception Video Recorder)を用いて行うことにした。
このようにして、アニメーションビデオの作成方法は確立したが、ビデオを作成する方法に替わるものとして、
コンピュータで動画ファイルを直接に作成してプレゼンテーションにも用いることができ、その方が作成も容易で、
画像も鮮明、かつ画像フレームの一時停止や逆回しなど、多くの機能をプレゼンテーション時に利用できることが
判ってきた。即ち、コンピュータ内でアニメーション動画ファイルを作成し、パーソナルコンピュータと接続された
プロジェクターで提示することが簡単に行えるように世の中が変わってきた。こうして、苦労してきたアニメーション
作成のためのビデオコマ撮りシステムは急激に魅力が失せてきた。
私達が行っているコンピュータ内でのアニメーション作成の方法は、SUNワークステーションでは、多数のgif
画像ファイルからPDS(Public Domain Software)のgifmergeを用いてgif movie file を作成し、xanimを用いて
movie playすることによってアニメーション動画を表示している。これは、すべてSUN内で実行できる。また、
gif movie fileはパーソナルコンピュータでも見ることができる。このgif movie fileはQuickTime formatに比べて、
動画ファイルの容量が磁力線などの線画で20%程度以下、カラー面画で50%程度以下と小さいのが魅力の一つで
ある。movie playerの一つであるxanimは、十分な機能を持った小さなコントロールパネルが別に表示され、どこにも
動かすことができて取り扱いも容易なので、パーソナルコンピュータでも利用できるようになると大変便利ではないか
と思っている。
パーソナルコンピュータでは、アニメーション動画としてQuickTime形式を主に利用してきた。これは、Macintoshと
Windowsの両方で見られる利点があるが、ファイル容量が大きくなる欠点がある。作成方法は、多数のgifファイルを
Indigo-2のmovie convertでQuickTime formatの動画ファイルに編集して作り、xanimやmovie playerなどの動画
ビューアでアニメーション動画を見ることができる。動画ファイルとして、MPEG-1形式もVRML(Virtual Reality
Modeling Language)2.0で標準仕様であるために魅力がある。これらの全ての動画ファイルは、そのままWWWで
公開することもできる。
高空間分解能の太陽風と地球磁気圏相互作用のシミュレーションを行い、IMFが北向きから南向きに変化した時の
地球磁気圏の応答を表すアニメーション動画の1コマ(南向きに変化してから60分後)を図9に示す。動画の
フレームは0.5分毎である。動画を見ると、尾部での磁気リコネクションがパッチ状で間欠的に起こり、
プラズマシートで縞状のプラズマ塊が発生してはリコネクション領域から尾方向と地球方向に次々と高速に
流れ去るのが分かる。また磁気圏境界でも波状構造が連続的に作られて下流に流されていくのが見られる。
このような複雑な時空間変化もアニメーション動画を見ると一目瞭然になる。
7.3次元可視化と情報公開
3次元の磁力線構造などを理解するために、座標軸を回転させて動画を作ることもよく使う方法である。市販の
AVSなどの3次元画像解析ツールなどは、大変便利で有意義なものであるが、3次元画像表示はあまりにも多様性が
あるので、本当に描きたい図を描こうとする場合、どうしても物足りない部分が出てくる。こうした場合、画像処理の
基本プログラムを組むことになる。私達はこれを3次元画像解析専用機TITANやIndigo-2、及び3次元画像処理専用
ソフトウエアDore、AVS、Open-GLを用いることによって実行してきた。3次元空間で磁力線を描き、専用機の
Zバッファなどの3次元画像処理機能を用いて、対象物を即座に回転したり、拡大縮小することにより、見易い
視点を選んで3次元構造の理解に役立ててきた。
しかし、VRML(Virtual Reality Modeling Language)の登場のよって、3次元画像処理専用機と3次元画像
処理専用ソフトウエアを持たなくても、誰でもVRMLのビューアさえあれば3次元画像を自分の好きなように見る
ことができる状況が実現した。自分のコンピュータの能力に依存して3次元画像処理(回転、拡大縮小など)の速度は
決まるが、最近のネットスケープやインターネットエクスプローラなどのブラウザを使えば、VRML2.0対応の
cosmo player等のビューアが標準で付いている。パーソナルコンピュータも最近高速になってきたので、高速のcpuと
グラフィックアクセラレータを積み、更に十分なメモリ(128 MB以上)を載せれば、SGI製のIndigo-2に劣らない
性能を発揮できる。また、精度の高い3次元画像を快適に見たいのであれば WebspaceやSGI のCosmoworldsの利用が
更に有効である。
VRMLファイルの作成をどう実現するかであるが、私達は、VRMLファイル作成のための Fortran Interface
Subroutine Packageを準備し、フォートランプログラムを用いて、3次元シミュレーションデータから直接にVRML
ファイル(*.wrl)を作っている。これは3次元と2次元の違いはあるが、PostScript画像ファイルを作成する方法と
同様の方法である。そのVRMLによる地球磁気圏の3次元可視化の具体例をWebspaceビューアを用いて図10に示す。
これは、図9と同じ時刻の地球磁気圏のスナップショットである。磁力線とプラズマ温度を描いている。プラズマシートの
縞構造と磁力線の歪みがはっきりと見られる。VRMLのビューアには通常視点を移動するwalkモードと対象物を移動・回転・
拡大縮小するexamineモードがあり、磁気圏の3次元構造をより詳しく調べることができる。現在の重要な問題点は、
地球磁気圏の3次元磁力線描画のVRMLファイルがasciiファイルを用いているために数MBと非常に大きくなること
である。これらの問題も圧縮VRMLファイルを標準に用いるとか、VRMLバイナリーファイルを用いることによって、
かなり改善されることが期待される。太陽風やIMFの変化に伴う地球磁気圏の時間変化の3次元動画をVRMLで
表示するのは今後の最も興味ある課題である。
8.おわりに
太陽風磁気圏相互作用の3次元グローバルMHDシミュレーションは、約16年前に、力が釣り合った平均的な
磁気圏の形をやっと再現できるところから出発して、発展を続け、最近では、衛星・地上観測と比較して磁気圏の
ダイナミックスを議論できる程度にまで成長してきた。こうして、上流の太陽風やIMFの変化に対する磁気圏・
電離圏の応答や、磁気圏での大きな擾乱現象であるサブストームや磁気嵐を直接シミュレーションから調べようと
する試みも行われるようになってきた。これらの太陽風磁気圏相互作用のグローバルMHDシミュレーションを
精度良く計算するためには、計算方法の改良が一方で必要であると同時に、最大級のスーパーコンピュータの利用は
不可欠である。大型シミュレーションは、誰もがすぐに追随して行うことはできないので、重要なシミュレーション
結果が一般の信頼を得るためには、少なくとも独立な2つの研究グループによって結果が確認されることが必要である。
もちろん、最初に新しいシミュレーション結果を出すことが強く望まれる。
富士通のベクトル並列機VPP500を用いて太陽風磁気圏相互作用のシミュレーションを行っているが、現状の
問題点と次のステップへの不安材料を最後に簡単に述べたい。まず、現状の問題点について述べる。最新のシミュレー
ション結果でどこまで出せたかをみると、各国の各グループの計算機環境が理解できる。即ち、地球磁気圏という同じ
目標物を扱っているので、得られた最新の結果は計算機環境、言い換えればシミュレーションのデータフローのボトル
ネックを反映している(図6参照)。私達の現在のボトルネックとしては、シミュレーション結果を保存する領域不足が
上げられる。16cpuで16GBのメモリを用いて最大容量のMHDシミュレーションを行えば、1回のサンプリング
出力は5GB程度となる。従って、一連の計算でその10倍のファイル容量を使用するが、これは現状では厳しい条件で
ある。一人でTBオーダーのファイル容量を必要とする状況は既に生まれている。
次のステップへの不安材料は、国産のベクトル並列機VPP500などの次機種及び次々機種がどうなるかと、
それに伴うプログラムの変更がどの程度必要となるかである。実効速度 1 Tflops がス−パーコンピュータの次の
目標であるが、ベクトル並列機でそこまで到達できるのか、あるいは超並列機に移ってしまうのかは大きな問題で
ある。なぜならば、プログラムの新しい開発及び全面的な書き換えには大きな負担を強いられ、半年から1年の
期間を要し、更に、計算精度を飛躍的に上げるために、時空間マルチグリッド法など大変複雑な計算アルゴリズムの
導入が図られているためである。是非とも、メーカーの新機種開発に期待したいが、米国のスペースシミュレーション
研究者が、HPF(High Performance Fortran)などの採用で、どの種類の超並列機でも問題なく計算でき、期待した
性能を実現できたと話すのを聞くと、近い将来の競争に不安を感ぜずにはいられない。
太陽風と地球磁気圏相互作用のシミュレーション結果を理解し、更に、人によりよく理解してもらうためには
可視化は必須であり、アニメーション動画の作成と3次元可視化/3次元画像解析は極めて強力な威力を発揮する。
シミュレーション結果からのアニメーションビデオ作成も、コンピュータ内のアニメーション動画作成に取って
代わられようとしている。更に、3次元画像処理専用機と専用ソフトウエアがなければ不可能であった3次元画像解析が、
VRMLの登場によって誰にでも手にすることができるようになった。そして、VRMLをめぐる利便さの環境は
信じられない速さで進歩している。
こうして、太陽風と磁気圏相互作用のシミュレーション結果のアニメーション動画と3次元可視化(VRML)
による情報公開も実現できるようになってきた。今後、魅力あるスペースプラズマの3次元シミュレーションを行い、
効率的でかつ統合的なシミュレーションデータフローシステムを構築して3次元シミュレーションデータを開示して
いくことが強く望まれる。これは、また宇宙天気プロジェクトにおいて、太陽風磁気圏電離圏相互作用の3次元MHD
シミュレーションデータの準リアルタイム交換を実現するための最も有効な方法ともなり得る。
参考文献 [1]国立極地研究所編 (1983) 南極の科学2、オーロラと超高層大気、古今書院. [2]永井亨 (1995) VPP Fortran入門、名古屋大学大型計算機センターニュース、 Vol. 26, No. 4, 315-339. [3]津田知子 (1996) 新スーパーコンピュータVPPの利用方法、名古屋大学大型計算機 センターニュース、 Vol. 27, No. 1, 25-43. [4]T. Ogino (1993) Two-Dimensional MHD Code, "Computer Space Plasma Physics" Edited by H. Matsumoto and Y. Omura, 161-207. [5]T. Ogino, R.J. Walker and M. Ashour-Abdalla, A global magnetohydrodynamic simulation of the response of the magnetosphere to a northward turning of the interplanetary magnetic field, J. Geophys. Res., Vol. 99, No.A6, 11,027-11,042. 脚注 名古屋大学太陽地球環境研究所のホームページと情報公開のテスト STEL home page and anonymous ftp: http://www.stealb.nagoya-u.ac.jp/ gifmerge movie: ftp://ftp.stelab.nagoya-u.ac.jp/pub/movie/ QuickTime movie: ftp://ftp.stelab.nagoya-u.ac.jp/pub/movie2/ VRML ftp://ftp.stelab.nagoya-u.ac.jp/pub/vrml/
図説
図1 太陽風と相互作用する地球磁気圏の概要図(「南極の科学」より)。
図2 MHDシミュレーションに用いる太陽地球磁気圏座標系。
図3 Modified Leap-Frog法の計算スキーム。
図4 3種類の計算方法を用いた波動方程式のシミュレーション。
図5 3種類の計算方法を用いたMHD衝撃波のシミュレーション。
図6 シミュレーションのデータフローの概要図。
図7 太陽風磁気圏相互作用の3次元グローバルMHDシミュレーションから得られた地球磁気圏 の構造、IMFが回転して南向きになり、プラズモイドが尾方向に放出される。
図8 地球磁気圏の3次元磁力線構造、図7と同じ時刻で尾部にプラズモイドを形作る螺旋状の 磁力線が見られる。
図9 惑星間磁場が北向きから南向きに変化して60分後の地球磁気圏の構造。尾部リコネクション が起こりプラズモイドが放出された後、尾部リコネクションはパッチ状かつ間欠的に起こる。
図10 VRMLにより可視化された、図9と同時刻の地球磁気圏の3次元構造。パッチ状かつ 間欠的な尾部リコネクションのため、プラズマシートに縞状の構造が現れる。