Magnetic Field Line Topology of the Earth's Magnetosphere




地球磁気圏の磁力線のトポロジー
Magnetic Field Line Topology of the Earth's Magnetosphere

荻野竜樹(名古屋大学太陽地球環境研究所)
OGINO Tatsuki (Solar-Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University)


Abstract: Topology of magnetic field lines in the earth's magnetosphere was discussed on the basis of 3-dimensional global MHD simulation on interaction between the solar wind and the magnetosphere. It is basically determined by magnetic reconnection and associated magnetospheric convection. Magnetic reconnection favorably occurs in antiparallel field region with a slower velocity. When the IMF has y component as well as z component, open field region exists. Configuration of field lines in the magnetosphere much differs from the superimposed model of geomagnetic field and a uniform IMF.

1.はじめに

太陽風から地球磁気圏へのプラズマとエネルギーの流入と流出を考える場合、 磁気圏の磁力線のトポロジーは最も重要なファクターとなる。そして、磁気圏 のトポロジーは惑星間磁場(IMF)と地球磁場との間の磁気リコネクション によって決定される。即ち、磁気リコネクションが磁気圏のどこで起こるか、 磁気リコネクションを起こす磁力線がどの様に移動するかが、磁気圏のトポロ ジーを決める基本的な要因となる。磁気圏での磁力線の移動、即ち磁気圏対流 を駆動するのに、磁気リコネクションの他に粘性相互作用がある。しかし、磁 気リコネクションが磁気圏対流を駆動するのに粘性相互作用よりも支配的であ ると観測からも考えられていて、太陽風と地球磁気圏の相互作用の電磁流体力 学的(MHD)シミュレーションからも、前者の効果が一桁大きいことが知ら れている。

磁気圏の磁力線のトポロジーを議論する際にしばしば使われる簡便な方法(モ デル)がダイポール磁場と一様なIMFとの重ね合わせである。ダイポール磁 場を経験的な地球磁場モデルに換える、IMFの磁気圏内への侵入度合いを考 慮するなどの、それらをより現実的に変形したモデルも数多く提案されている。 これらのモデルは、磁気圏のトポロジーの第0次モデルを議論するときには大 変有用である。しかし、磁気リコネクションの特徴として、それはあまりに大 量のプラズマとエネルギーの変換輸送プロセスを引き起こすため、一旦起こる と後の磁気圏ダイナミックスを支配的に決定してしまう。しかも、磁力線の磁 気圏内での動きは磁力線の張力、プラズマと磁場の圧力等の微妙なバランスの 結果発生するので、磁気圏内の磁力線の形を議論する場合には、重ね合わせの 線形モデルはどんなに上手に作っても、ほとんど現実を反映してはいない。従 って自己矛盾の無いMHDシミュレーションなどの結果から議論する以外に、 現在のところ適当な方法を見いだすことができない。

IMFと地球磁場の磁気リコネクションが磁気圏境界のどこで起こり易いかは 決定的な二つの条件がある。一つは、反平行磁場条件がどれだけよく満足され るかであり、もう一つは、IMFと地球磁場の間の磁力線に垂直な方向の相対 的な速度がどれだけ小さいかである。反平行磁場条件は、リコネクションする 二つの磁力線がどれだけ逆方向に近い角度になっていて、かつ磁場の大きさが どれだけ等しい値に近いかで条件の良さが決まる。一方、リコネクションする 二つの磁力線の、磁力線に垂直な方向の相対的な速度は、磁気圏の外側(マグ ネトシース)では停留点でもある、太陽直下点から半径方向に広がる方向に加 速されながら流れ、その速さは簡単に局所的なアルフベン速度を超えてしまう。 従って、昼側磁気圏のどこでIMFと地球磁場の磁気リコネクションが起こる かは、反平行磁場条件と磁力線と垂直方向の相対速度の大きさ(実際的にはマ グネトシース側の磁力線が磁力線と垂直方向にどれだけの速さで動いているか) との競合によって決定される。これは、プラズマ不安定における絶対的不安定 と対流的不安定の関係と同じである。絶対的不安定の場合は不安定の成長率が 重要であるが、対流的不安定の場合は不安定の成長率を不安定波の群速度で割 った有限時間の増幅率がより重要になる。

IMFが真南向きの場合は反平行磁場条件が停留点でもある太陽直下点で満足 されるので、磁気リコネクションは最も効率よく発達する。一方、IMFが南 向きで東西成分(y成分)を持つ場合は、太陽直下点では反平行磁場条件が満 たされ難くなり、逆に反平行磁場条件が満たされる場所では磁気圏の外側(マ グネトシース)の磁力線が磁気圏境界に沿って尾方向に流れているので磁気リ コネクションの進行が抑制される。どちらでより支配的に磁気リコネクション が起こっているかをグローバルMHDシミュレーションからみると、反平行磁 場条件を満足することが第一で、その中で磁力線間の相対速度がより小さい領 域、即ち太陽直下点により近い領域で磁気リコネクションが起こり易いと結論 することができる。

地球磁気圏の磁力線構造を決定するためのもう一つの重要なファクターは、磁 気リコネクションする磁力線がどの様に移動するかである。地球磁場とリコネ クションした磁力線で、地球から遠方の惑星間空間に位置する部分は太陽風に 伴って尾方向に太陽風の速度で流れていて、地球側の端は極域にその足を持ち、 適当な電気伝導度を有する電離層の高度で磁場拡散効果が顕著に起こって磁力 線のスリップを引き起こし、同時に磁力線とプラズマの動きは一緒になって、 極域対流を駆動している。磁気圏内では、磁気リコネクションを起こした、地 球から遠方の磁力線の流れが主たる駆動力になり、プラズマと磁場の圧力バラ ンスにも影響を受けた、プラズマと磁力線が一緒になった動きが起こり、その 結果、準定常な磁気圏対流が形成される。

昼側磁気圏での磁気リコネクションによって大量の磁束が尾部に運ばれると、 磁気圏尾部でも磁気リコネクションが新たに発生する。これらの磁力線の一連 の動きが地球磁気圏の磁力線のトポロジーを決定することになる。以下に、I MFの南北成分(z成分)のみが存在する場合と、IMFの東西南北成分(y とz成分)が同時に存在する場合の地球磁気圏の磁力線のトポロジーを太陽風 地球磁気圏相互作用の3次元グローバルMHDシミュレーション結果を基本に 用いて議論する。

2.惑星間磁場の南北成分による磁気圏のトポロジーの変化

IMFを一定の方向に固定して、太陽風と地球磁気圏相互作用の3次元グロー バルMHDシミュレーションを行い、実時間で4〜6時間後にほとんど定常状 態に達した地球磁気圏を得ることができるので、そのシミュレーション結果を 用いて磁気圏の磁力線のトポロジーを議論する。MHDシミュレーションモデ ルは他に詳しく書いている[1、2]ので、ここでは必用なところを簡略に述 べる。MHDモデルでは流体方程式とMaxwell方程式を差分化して、高精度計算 法の一つであるModified Leap-Frog Methodで初期値境界値問題として時間発展 を解く。図1にMHDシミュレーションに用いた太陽地球磁気圏座標系を示す。 太陽方向をx軸正、夕方向をy軸正、地磁気北極方向をz軸正にとり、IMF の角度θは太陽側から見てy軸から反時計周りにとる。従って、θ=270゜ は南向き、θ=0゜は夕向き、θ=90゜は北向きのIMFとなる。IMFの 大きさは5nTで、太陽風のパラメータは全て一定で、数密度が5/cc、速 度が300km/s、絶対温度が20万度である。

IMFが南向きの場合(θ=270゜)の準定常な磁気圏の磁力線構造を図2 に示す。上半図では、磁力線を描くのに磁力線を赤道面から出発させていて、 下半図では磁力線を北極域から出発させている。IMFが南向きの場合、昼側 磁気圏でのIMFと地球磁場のリコネクションは、先ず停留点である太陽直下 点(1)で起こり、リコネクションした開いた磁力線は極域(2)を越えて昼 側から夜側に運ばれ、尾部のプラズマシート(3)で再び磁気リコネクション が起こり、新たに生成された閉じた磁力線は地球近くの内部磁気圏(4)を通 って太陽直下点(1)に戻る。尾部リコネクションの結果生じた地球に結ばれ ていない分離した磁力線は、そのまま尾方向に流れ去る。これらの特徴的磁力 線が極域でどこに足を持っているかは、後述の図6の極域ポテンシャル分布図 に示している。図6は、極域の電気ポテンシャルの等高線(赤は正、青は負) を示したもので、極域対流パターンもほとんどその等高線に沿って生じる。即 ち、赤は左回り、青は右回りの極域対流cellを示している。従って、極域では、 1ー2ー3と反太陽方向の流れが磁気リコネクションにより発生し、太陽直下 点リコネクションによって減少した昼側磁気圏の磁束を補給するために3ー4 ー1の太陽方向の流れが低緯度に誘起され、いわゆる2cell対流パターンが形 成される。

次に、IMFが北向きの場合(θ=90゜)の準定常な磁気圏の磁力線構造を 図3に示す。磁力線の描き方は図2の場合と同じである。IMFが北向きの場 合、反平行磁場条件は高緯度尾部領域、即ちカスプの夜側で地球磁場が尾方向 に曲がっている領域で成り立つ。更に、その領域では磁気圏の外側(マグネト シース)での磁力線に沿った方向の流れは速いが、磁力線に垂直方向の流れは 極めて遅いことが分かる。こうしてIMFが北向きの場合も高緯度尾部領域( 1)で磁気リコネクションがIMFが南向きの場合に比べて起こる割合が小さ いながらも発生する。IMFが真北向きの場合は特別で、高緯度尾部リコネク ションが南北対称にかつ同時に起こり、閉じた磁力線と地球に足を持たない分 離された磁力線が同時に発生する。閉じた磁力線は磁気張力によって短くなろ うとする力が働き、リコネクション領域(1)から太陽直下点領域(2)への 太陽方向の対流を駆動する。地球に足を持たない磁力線は、そのまま尾方向に 流れ去る。太陽直下点領域に移動した閉じた磁力線は、その領域で磁束が増加 するために、磁気圏の縁の朝夕領域(3)を経由して、磁気圏の真夜中領域( 4)に移動し、更には、尾方向に分離した磁力線が流れ去って磁気圧が減少し た高緯度尾部リコネクション領域(1)に戻っていく。こうして、IMFが北 向きの場合は、南向きの場合と比較して極域の対流が完全に逆向きになる。

このIMFが北向きの場合の極域4cell対流パターンは、θ=90゜に対する 図6に於いて明瞭に見ることができる。高緯度側に位置するcellが高緯度尾部 リコネクションによって直接駆動されたmerging cellで低緯度に位置するcell がmerging cellによって誘起されたviscous cellである。極域の中心において は、4ー1ー2と太陽方向の対流が発生していて、その流れの方向は南向きI MFの場合と全く逆向きになる。ここで、注意しておきたいもう一つの重要な 点は、IMFが真北向きの場合、完全に閉じた磁気圏が形成されることである。 即ち、最も遠方の閉じた磁力線が夜側でx=−45Reに位置している。しか し、実際の場合には真北向きのIMF条件が3時間以上も長時間継続すること はめったに生じない。さらに、IMFが小さくてもy成分を同時に持つ場合、 この閉じた磁気圏のトポロジーがどのように変化するかは大変興味のある問題 である。このような磁気圏のトポロジーの変化に焦点を当てて、IMFの東西 南北成分が同時に存在するときの磁力線トポロジーの議論を次章で展開する。

3.惑星間磁場の東西南北成分による磁気圏のトポロジーの変化

IMFの南北成分(z成分)にIMFの東西成分(y成分)が加わった時,磁 気リコネクションはどこで起こるか,その結果として磁気圏の磁力線のトポロ ジーはどのように変化するかをこの章で議論する。先ず,IMFの東西南北成 分のみが存在する時,磁気圏構造は太陽と地球を結ぶ(x軸)に対して点対称 性が保たれることを指摘しておく。ここで,IMFが南向きで(Bz<0)で IMFの東西成分(y成分)が存在する時,昼側磁気圏での磁気リコネクショ ンの起こる場所はどのように移動するであろうか,それとも移動しないであろ うか。図4に基本的に異なる二つの考え方,太陽直下点(成分)リコネクショ ンモデルと反平行磁場領域リコネクションモデルを示す。太陽直下点モデルは, 昼側磁気リコネクションは常に停留点である太陽直下点で最も支配的に起こる とするもので,反平行磁場条件が満足されにくくなる程,リコネクションの起 こる割合が減少するとするものである。

昼側磁気圏境界での局所的でかつ間欠的な磁気リコネクション現象と信じられ ているFTEs(Flux Transfer Events)の起こる原因としてはこの太陽直下 点リコネクションの結果であろうと推量されている。この場合,リコネクショ ンラインが存在し,そのラインを境として磁力線とプラズマの流れが両方向に 分かれることになる。一方,反平行磁場リコネクションでは,昼側磁気リコネ クションはIMFのy成分が有限の場合,反平行磁場条件を満足し,かつ磁気 圏外側(マグネトシース)での磁力線に垂直方向の流れが最も遅い領域,即ち 太陽直下点に最も近い領域でリコネクションが起こり易いことを私達は指摘し た[2、3]。この両者の違いを観測的に明確にするためにはリコネクション ラインと反平行磁場領域間の磁力線とプラズマの動きを知ることができれば可 能なはずであるが,FTEsからも知られるように昼側リコネクションは間欠 的に,かつあらゆる方向に非常に狭い領域で起こっていて,更に磁気圏境界の 場所と状態も太陽風とIMFの変化に伴って時々刻々変化しているために非常 に困難であると言われている。グローバルMHDシミュレーションの結果から 調べるとIMFのy成分がある程度ある場合,即ちIMFが南向きから約20° 以上逸れると反平行磁場領域での磁気リコネクションがより支配的になること が明確である。即ち,リコネクションした磁力線の多さは,太陽直下点から離 れて,反平行磁場領域に分離した形で多く見られるようになる[3]。

IMFが南向き(θ=270°)と北向き(θ=90°)の場合及びそれぞれ から45°逸れた場合(θ=315°とθ=45°)について,準定常状態の 磁気圏の磁力線構造を図5に示す。緑が閉じた磁力線を,青が開いた磁力線を, 赤が地球に全く足を持たない分離した磁力線を示す。原点を中心に描かれてい る赤の円は半径2Reである。極域からの磁力線は図6に示すように開いた磁 力線と閉じた磁力線の境界を検出して,その近くの磁力線のみを選んで描いて いる。この結果,閉じた磁力線の最も外側の境界,即ち磁気圏の形状を明確に 見ることができる。これからの磁力線の変化については特に断らない限り北半 球での現象を述べることにする。

IMFの角度θ=315°(Bz<0,By>0)の場合,北半球で昼側磁気 リコネクションの起こる領域は夕側(y>0)に移動し,リコネクションした 開いた磁力線の磁気圏から離れた領域は朝側(y<0)にあって太陽風の流れ によって尾方向に運ばれる。こうして北半球昼側領域で反太陽方向の流れと同 時に夕側から朝側へ向かう流れを発生する。この極域対流の変化はθ=315° の図6で,夕側対流のcellの拡大として見られる。一方,それらの開いた磁力 線が尾方向に運ばれる時,開いた磁力線は尾部で朝側から真夜中子午面方向に 移動し,そこで磁束が蓄積して磁気圧が増すため更に真夜中子午面を横切って ある程度夕側まで移動し,そこで尾部リコネクションを引き起こす。従って, Bz<0かつBy>0の場合,昼側磁気圏境界での磁気リコネクションも尾部 リコネクション領域も夕側に移動する。これらの磁気圏対流はθ=315°の 図6での夕側対流cellの拡大と磁気北極域での朝側への張り出し,及び朝側対 流cellの三カ月形への変形と夜側の端での夕側への張り出しによって見ること ができる。

IMFが真北向き(θ=90°)の場合には,閉じた磁気圏が形成されている のが見られる。IMFの角度θ=45°(Bz>0,By>0)の場合,北半 球での磁気圏境界で磁気リコネクションが起こる領域は,夕側でしかもカスプ より少し夜側の反平行磁場領域に移動する。従って,リコネクションした開い た磁力線は,北半球でその足を極域夕側に持ち,その磁気圏から離れた部分は 朝側でかつ南半球にあり,太陽風と共に尾方向に運ばれる時,磁気圏境界を覆 うように垂れ下がり,朝側かつ南半球で尾部に移動するにつれて,朝側磁気圏 を南半球方向へ移るのと同時に開いた磁力線自身は尾部磁気圏境界を滑るよう にして,南から北へ,かつ朝側から夕側方向へ移動する。それに伴い閉じた磁 力線も尾部で大きく変形し,尾部方向へ伸ばされるのと同時に,厚さが非常に 薄くなる。図6の極域対流を見ると夕側の対流cellの最大値が真昼真夜中子午 面まで朝側に移動し,かつ夜側の端で朝側の対流cellの三カ月形の曲がりも大 きくなり,夕側へ大きく張り出すと共に太陽方向の対流成分も出現している。 磁気圏の閉じた磁力線領域だけ見ると,IMFが南向きから北向きになる程, 南北方向に磁気圏が膨らんでいるのがわかる。これは北向きになる程大量のプ ラズマを閉じた磁気圏領域に安定に保存できることを意味している。

IMFの方向に依存する北極域での電気ポテンシャルのパターンの変化を図6 に示す。赤は正,青は負のポテンシャルを示し,緑で描いた二つの線は,閉じ た磁力線側からと開いた磁力線側から求めた,磁力線の open-closed境界を示 す。従って二つの線の間に開いた磁力線と閉じた磁力線の境界が存在すること になり、緑線の外側が閉じた磁力線領域、内側が開いた磁力線領域に対応する。 前述した様に,等ポテンシャル線はほぼ極域対流パターンに対応し,赤が左回 りの対流,青が右回りの対流に対応すると見なすことができる。こうして,南 向き(θ=270°)の2cell対流パターンがθが増加するにつれて,どの様 に歪んだ2cellパターンに変形していき,夕向き(θ=0°)を通過して北向 きになる時,θ=45°で夕側cellの極大値が真昼真夜中子午面まで夕側から 朝側に移動し,3cell対流パターンを通して,θ=75°で4cell対流パター ンが形成され,北向き(θ=90°)で merging cell と viscous cell から なる対称的4cell対流パターンが形成されているのと同時に,開いた磁力線領 域が消滅しているのが見られる。

IMFが南向き(Bz<0)の時,極域対流パターンの方向が急に変化してい る対流逆転領域と開いた磁力線と閉じた磁力線の境界がよく一致しているのが 知られる。これは磁気リコネクションの結果,開いた磁力線領域で反太陽方向 の動きが駆動され,一方閉じた磁力線領域で太陽方向の動きが減少した磁束を 補うように駆動されるためである。こうして,IMFが南向きの時は対流逆転 の領域と開閉磁力線境界はほぼ一致している。IMFが北向きになると開閉磁 力線境界は極域で小さくなり,低緯度の粘性対流cellの極値領域にほぼ対応す るエネルギー束の大きな領域と比較しても狭い領域になる。IMFの角度θ= 75°の時,磁気リコネクションの起こる領域は北半球で夕側かつカスプの夜 側に移動する。そしてリコネクションした開いた磁力線の磁気圏外の領域は朝 側南半球にある。この開いた磁力線が尾部に移動する時,先ずカスプの昼側で 夕側から朝側に大きく移動する。こうしてBz>0でBy>0の時,北半球で は朝側極域に開いた磁力線領域が拡大している。この現象は図10の磁力線構 造で再度説明する。

IMFの方向に依存した極域電気ポテンシャルの変化を図7に示す。φ+は正 のポテンシャルをφーは負のポテンシャルをφ+−φ−は極域横断ポテンシャ ル差を示す。南向き(θ=270°)から角度を増加する時,約45°変化す るまで(θ=315°)ポテンシャルの変化はほとんど生じないが,45°を 越えて90°まで変化する時ポテンシャルの大きさは減少する。そのポテンシ ャルの減少は北向き(Bz>0)になっても続き,θ=0°からθ=45°ま での間は同じ減少の傾向を持ち,θ=45°からθ=60°までの間ではφ+ −φーなどの変化は少なくなり,θ=60°からθ=90°まではほぼ一定に なる。またθ=270°〜360°とθ=0°〜30°で2cell対流パターン, θ=30°〜60°で3cell対流パターン,θ=60°〜90°で4cell対流 パターンとなる。

南向き(θ=270°)から角度が増加する時,昼側磁気圏でのリコネクショ ンの起こる割合は減少するが,極域電気ポテンシャルの変化は少ない。これは 極域ポテンシャルにリコネクションの起こる割合は直接には関係せず,リコネ クションによって生じた開いた磁力線が磁気圏のどこを移動しどれだけの速さ で動くかが重要であることを意味している。θが315°を越えると,夕側対 流cellのピークが朝側に移動し,かつ朝側対流cellのピークが夜側に移動して いるのが見られる。これはリコネクションの起こる割合も減少し,かつ開いた 磁力線の朝側と夕側の距離も短くなるためにポテンシャルが減少する。IMF が北向きになりθ=30°になると磁気圏境界での磁気リコネクションが起こ る場所がカスプより夜側に移動する。従って,θ=45°の図6に見られる様 に夕側の対流cellのピークが二つに分離して3cell対流パターンが現れ、夕側 の開閉磁力線境界の近くで太陽方向の対流成分が現れている。θ=60°にな ると反平行磁場領域がカスプの夜側に完全に移り,高緯度尾部リコネクション が起こるようになり,その結果磁気北極域で太陽方向の対流が顕著に駆動され, 4cell対流パターンが形成されるようになる。

IMFの方向がそれぞれθ=0°,30°,75°の場合の磁気圏の磁力線の 3次元構造をそれぞれの特徴がはっきりするような方向から見て,図8,9, 10に示す。緑,青,赤はそれぞれ閉じた磁力線,開いた磁力線,及び地球に 足を持たない分離した磁力線を示す。IMFが夕向き(θ=0°)の時,北半 球で磁気リコネクションがカスプの夕側寄りの磁気圏境界で起こり,リコネク ションの結果朝側に伸びた開いた磁力線を見ることができる。これらの開いた 磁力線は惑星間空間の部分が太陽風と共に尾方向に運ばれるにつれて,朝側の 磁気圏境界を滑るように尾方向,かつ朝側から真夜中子午面方向に移動して, 磁気圏内で北半球朝側からと南半球夕側から真夜中子午面領域へ移動してきた 開いた磁力線の間で尾部リコネクションが再び起こり,閉じた磁力線(緑)は 地球側へ,地球に足を持たない分離した磁力線(赤)は尾方向に流れ去る。磁 気圏の形として,朝側で南に抑えられ夕側で北に持ち上げられて,朝夕非対称 性が生じるが,その傾向は磁気圏尾部でより顕著になり,尾部のプラズマシー トが朝側で南に夕側で北に傾いている。

図9に示すように、IMFの角度θ=30°(By>0,Bz>0)の場合の 磁力線構造を尾方向から見ると,朝側で南に夕側で北に傾いているのと,北半 球の夕側で磁気リコネクションが起こり,生成された開いた磁力線が南半球朝 側の惑星間空間に伸びているのが見られる。開いた磁力線の惑星間空間の部分 が尾方向に運ばれるにつれて,朝側の磁気圏境界を滑るように朝側から真夜中 子午面方向に移動し,反対側(夕側)から移動してきた磁力線との間に尾部リ コネクションを引き起こす。尾部リコネクションの結果,閉じた磁力線(緑) と地球に足を失った分離した磁力線(赤)が作り出され,分離した磁力線(赤 )は尾部で朝夕方向に広がり南北方向に薄い形状を示す傾いたプラズマシート 中に存在する。プラズマシートの傾きは開いた磁力線の尾部での対流に伴って 生じる回転力に起因することが知られる[4]。

図10に示すように、IMFの角度θ=75°(By>0,Bz>0)の場合 の磁力線構造を太陽側から見ると,北半球で磁気リコネクションが夕側でかつ カスプの尾側で起こっているのが見られる。磁気リコネクションから生じる開 いた磁力線はその地球への足を北半球夕側に持ち,反対側は磁気圏の南半球朝 側,かつ昼側に伸びている。惑星間空間の部分が尾方向に運ばれるにつれて, その開いた磁力線は北半球の朝側磁気圏境界を滑るように尾方向かつ朝側から 真夜中子午面を通ってある程度夕側まで移動する。こうして初めの夕側高緯度 尾部の磁気リコネクション領域に戻る。引き続いて,再度その開いた磁力線と IMFの間でリコネクションを起こし,開いた磁力線の極域における定常な対 流,即ち定常なローブ対流が起こる。その領域が図6に見られる緑の線で囲ま れた開いた磁力線領域に対応する。北半球で磁気リコネクションは夕側尾部で 発生するものの開いた磁力線は朝側に運ばれて北半球朝側で開いた磁力線がよ り多くなる。

4.まとめ

太陽風地球磁気圏相互作用の3次元グローバルMHDシミュレーションの結果 を基礎に用いて、IMFが南北成分(z成分)と同時に東西成分(y成分)を 持つ場合の地球磁気圏の磁力線のトポロジーを詳しく見てきた。磁気圏のトポ ロジーを議論する場合、磁気リコネクションが本質的な役割を果たす。特に、 磁気リコネクションがどこで起きるかと、リコネクションする磁力線がどの様 に動くかが重要な鍵となる。

磁気圏境界での磁気リコネクションは、反平行磁場条件を満たす領域の中で、 しかも太陽直下点に近い領域でより支配的に起こる。IMFの方向が、南向き から約20゜以上逸れると太陽直下点での成分磁気リコネクションは抑制され、 磁気圏のグローバルなダイナミックスには重要な役割を果たさないようになる。 これは、IMFが衝撃波を通過して磁気圏境界に近づく時、IMFの磁力線は 磁気圏境界を包み込むように覆うので、太陽直下点は停留点としての意味は変 わらないが、IMFの磁力線が最初に地球磁場に遭遇する点という意味はほと んど失われるからである。磁気リコネクションはそれが一度起こると後に継続 する磁気圏ダイナミックスを大きく規定するため、衝撃波を含まないシミュレ ーションとか、IMFが地球磁気圏に最初に接近する初期のシミュレーション などだけでは、現実的な現象に対応していない可能性が大である。

また、地球磁気圏のトポロジーの概略を知るためによく利用される地球磁場と 一様なIMFとの重ね合わせで、磁気圏内部、特に尾部の磁力線構造を知るこ とはほとんどできない。これは、磁気圏構造は完全な非線形相互作用の結果し て形成され、即ち磁力線の張力の強力な作用と、プラズマと磁場の圧力バラン スのわずかのずれから定常の磁気圏形状が決定されるためである。

IMFが東西南北成分(y,z成分)のみを持ち、太陽地球方向成分(x成分 )を持たない場合、太陽と地球を結ぶ軸(x軸)に対して磁気圏は点対称にな る。従って、北半球で生じる現象は、朝夕を逆にすれば南半球で同じ現象が起 こることになる。従って、北半球の場合について磁気圏トポロジーの議論を次 にまとめる。

IMFが南向き(Bz<0)で夕向き(By>0)の場合、昼側磁気リコネク ションは反平行磁場領域、即ち夕側でより支配的に起こる、磁気リコネクショ ンで発生した開いた磁力線は昼側で夕側から朝側へ運ばれ、尾部では逆に朝側 から夕側に運ばれる。その結果、尾部ではトルクが発生してプラズマシートを 傾けるのと並行して、再度磁気リコネクションが起こる。また、極域での対流 逆転の領域は開いた磁力線と閉じた磁力線の境界に極めてよく一致する。

IMFが真北向き(θ=90゜)の場合、高緯度尾部リコネクションが南北で 対称かつ同時に起こるために、閉じた磁気圏が形成される。IMFにわずかの 夕向き成分(Bz>0、By>0)が加わる場合、磁気リコネクションは夕側 の高緯度尾部領域で起こり、生成された開いた磁力線が朝側に移動するため、 極域朝側により多くの開いた磁力線が存在するようになる。

IMFの夕向き成分(By>0)が更に強くなると、夕側高緯度尾部磁気リコ ネクションの結果、開いた磁力線が朝側で更に増加し、磁気圏が朝側で南に夕 側で北に傾く。尾部でのプラズマシートの傾きは更に顕著になり、その傾きの 方向は上流のIMFの方向によく沿うようになる。IMFの角度θが30゜以 下になると尾部でもIMFが南向きの場合と同じような尾部リコネクションが 起こり、尾部での磁力線の方向はプラズマシートの傾きの方向とほぼ一致する ようになる。これらの磁気圏の構造は、複雑ではあるが磁気リコネクションと それに伴って引き起こされる磁気圏対流によってよく説明することができる。

謝辞
 本稿のコンピュータシミュレーションは、名古屋大学大型計算機センターを 利用してなされたものである。

参考文献

[1]T. Ogino, R.J. Walker and M. Ashour-Abdalla, IEEE Trans. 
      on Plasma Sci., 20, 817 (1992).
[2]T. Ogino, R.J. Walker and M. Ashour-Abdalla, J. Geophys. Res., 
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[3]R.J. Walker and T. Ogino, J. Geomag. Geoelectr., 48, 765 (1996).
[4]A. Nishida and T. Ogino, AGU Mono., 105, 61 (1998).

図説
Figure Captions

図1 MHDシミュレーションに用いた太陽地球磁気圏座標系。
Fig. 1 Solar-magnetospheric coordinate system used in the computer simulation.

図2 惑星間磁場(IMF)が南向きの場合の地球磁気圏の磁力線構造。
Fig. 2 Configuration of magnetic field lines in the earth's magnetosphere for southward IMF.

図3 惑星間磁場(IMF)が北向きの場合の地球磁気圏の磁力線構造。
Fig. 3 Configuration of magnetic field lines in the earth's magnetosphere for northward IMF.

図4 反平行磁場条件と太陽直下点条件に対する二種類の磁気リコネクションモデル。
Fig. 4 Two different magnetic reconnection models for antiparallel magnetic field condition and subsolar region.

図5 惑星間磁場(IMF)の方向が一定の場合の準定常な地球磁気圏の磁力線 構造。
Fig. 5 Configuration of magnetic field lines in the earth's magnetosphere for the IMF orientation.

図6 惑星間磁場(IMF)の方向が一定の場合の準定常な地球磁気圏における 極域電気ポテンシャルと開いた磁力線と閉じた磁力線の境界。
Fig. 6 Electric potential and open-closed boundary in the polar region for the IMF orientation.

図7 惑星間磁場(IMF)の方向に依存した極域電気ポテンシャルの変化。
Fig. 7 Variation of the electric potential in the polar region for the IMF orientation.

図8 惑星間磁場(IMF)の方向θ=0゜が一定の場合の準定常な地球磁気 圏の磁力線構造。
Fig. 8 Configuration of magnetic field lines in the earth's magnetosphere for the IMF orientation with theta=0 degrees.

図9 惑星間磁場(IMF)の方向θ=30゜が一定の場合の準定常な地球磁 気圏の磁力線構造。
Fig. 9 Configuration of magnetic field lines in the earth's magnetosphere for the IMF orientation with theta=30 degrees.

図10 惑星間磁場(IMF)の方向θ=75゜が一定の場合の準定常な地球 磁気圏の磁力線構造。
Fig.10 Configuration of magnetic field lines in the earth's magnetosphere for the IMF orientation with theta=75 degrees.


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