背景電子の温度が小さい場合は、背景電子・ビームイオン間のBuneman不安定性が支配的である。この場合、系全体で見た場合、背景電子、イオンそしてビームイオンのすべてが不安定な状態にある。しかし電子はイオンより軽く動きやすいため、より早く安定な状態に移行しやすい。よって、背景イオン・ビームイオン間の不安定性より背景電子・ビームイオン間のBuneman不安定性早く起こり、安定な状態に落ち着いてしまう。
一方、背景電子の温度が高い場合は、Buneman不安定性が弱まり背景イオン・ビームイオン間の不安定性であるイオン二流体不安定性が支配的となる。イオン二流体不安定性とは、イオン・イオン間で相対速度を持つ場合に生じる静電的な不安定性で、各イオンが自らの運動エネルギーを電場に与えたより安定した速度分布に落ち着こうとして起こる不安定性である。
今回我々は背景電子の熱速度を変え、低温から高温に移る過程で2つの不安定性がどのように遷移するかを検証した。解析手法は、3種のプラズマ集団の分布関数を時間的に追うことにより、どのプラズマ同士の相互作用が最も効いてくるかを見、各温度における不安定性が何に因るものなのかを同定する。また、場合によっては場のエネルギーとプラズマエネルギーの時間変化を見ることで、場とプラズマの相互関係も探った。各温度における結果は、以下の通りである。
(1)Te/Ti=1.0
比較的低温な場合には、Buneman不安定性による、背景電子・ビームイオンの相互作用が顕著であり、背景電子の分布関数が時間的に変調されていく様子が観測された。その時、背景電子の運動エネルギーは急速に増加しており、ビームイオンからエネルギーを得たことが分かる。
(2)Te/Ti=0.01
極低温な場合には、(1)の場合よりも強烈なBuneman不安定性が実現され、比較的早い時間で背景電子・イオンビームの相互作用が観測された。さらにその後、ビームイオンと背景イオンとの相互作用が開始され、イオン・イオン不安定性が発生したことも観測された。これはイオンビームの持つエネルギーが背景電子だけでは吸収できず、背景イオンにまでその影響が及んでいることを意味する。
(3)Te/Ti=400
高温な場合には、典型的なイオン・イオン不安定性が実現されている。初めはイオン同士がそれぞれのドリフト速度を中心として逆位相で変動しているが、線形成長領域ではイオン同士のエネルギー交換が激しくなり、背景イオンの運動エネルギーが増加する。それと同時に、電場変動も激しくなり結果的に背景イオンと電場にエネルギーが分配される。
(4)Te/Ti=25
このパラメータは特殊で、(1)、(2)の間に属するのだが、背景プラズマ、ビームイオンが初めの段階からすでに平衡状態を保っている。これはちょうど2つの不安定性が弱まっている領域であるためと考えられる。